日米通算4367安打を記録した元メジャーリーガーのイチローさん(51歳、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が、母校の愛工大名電高校を11月18日にサプライズ訪問しました。
イチローさんは2020年2月に学生野球資格回復制度の認定を受けて以来、プロ球団の活動がないオフシーズンを利用して高校野球部への指導を行っています。
今回の母校訪問は、同月に大阪府立大冠高校、岐阜県立岐阜高校を訪問した後の3校目となり、通算で11校目の指導となりました。
各校で技術指導はもちろんのこと、精神面でのアドバイスや野球に対する姿勢など、幅広い指導を展開。
51歳となった今でも衰えを感じさせない走りや打撃を披露し、後輩たちに「最高の手本」を示しました。
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イチローさんが母校・愛工大名電を訪問
画像引用元:スポニチSponichiAnnex
イチローさんは母校である愛工大名電高校を訪れ、3年生を含む野球部員45人を前に熱のこもった指導を行いました。
訪問前、プロ顔負けの練習施設やラプソードなどデータ測定器が整った環境に驚かされたイチローさんは、「この成績はないでしょ。この施設を持つ学校、ないでしょ」と厳しい言葉を投げかけました。
今秋の県大会で3回戦敗退だったことに触れ、「1回戦負けと一緒。愛工大名電にとっては」と喝を入れることから指導が始まりました。
イチローさんが愛工大名電を訪問した理由は?
母校訪問には複数の重要な理由がありました。
まず、「僕のことを知ってくれているという情報があった」と述べているように、現役部員たちの認知度の高さがきっかけの一つとなりました。
また、「みんなのことは気にしていた。凄く見ていた。夏の甲子園予選から見ていた」という発言からは、母校への深い愛着と後輩たちへの constant な関心がうかがえます。
さらに、充実した施設環境に比して結果が伴っていない現状への危機感も大きな要因でした。
実際、施設見学後の「この成績はないでしょ」という言葉には、母校の野球部の現状を憂う気持ちが込められていました。
過去に訪問しなかった理由については、メジャーリーグでの現役時代の多忙なスケジュールや、適切な訪問タイミングを見計らっていた可能性が考えられます。
また、2020年から始まった他校への指導を優先していた面もあるかもしれません。
今回の訪問は約18年ぶりとなり、OBとしての責任感と現状への危機感、そして後輩たちの認知度の高まりが重なって実現したものと考えられます。
イチローは愛工大名電でどんな指導をした?
画像引用元:サンスポ
イチローさんは約4時間にわたり、技術面と精神面での熱のこもった指導を行いました。
技術面では、まずキャッチボールから始まり、外野からの送球で相手の胸元にピタリと届く正確性を披露。
「レーザービーム」と呼ばれた現役時代を思わせる鋭い送球に、部員たちは目を見張りました。
走塁指導では51歳とは思えないキレのある走りを見せながら、股関節の使い方を解説。
打撃では、トスバッティングで鋭い打球を連発し、フリーバッティングでは風の影響がある中でもライトスタンドへの打球を放ちました。
投球フォームについては「軽く投げているように見えるけど、股関節と肩甲骨だけ(で投げる)。投げ終わりの姿勢も大事」と、体の使い方の重要性を強調しました。
精神面では、「データで見えていないことを大事にしているか」と問いかけ、感性を大切にすることの重要性を説きました。
また「名電のプライドを持って、しっかりプレーしてください」と母校の誇りを持つことを説き、「その次を見据えて頑張ってください」と向上心の大切さも伝えました。
高校時代のイチローさんをコーチとして指導した倉野光生監督(66)は18年ぶりの再会となり、「彼ら(部員)には”野球の神様”みたいなもの」と表現。
技術面だけでなく精神面でも熱のこもった指導を通じて、イチローさんは母校への深い愛情と後輩たちへの大きな期待を込めたメッセージを送り続けました。
大阪の大冠高校を訪問
イチローさんは大冠高校を2日間にわたって訪問し、公立校ならではの課題と可能性に焦点を当てた指導を行いました。
大阪では大阪桐蔭と履正社の2強が君臨する中、公立校として挑戦を続ける同校に対し、現実を直視しながらも希望を持って戦う姿勢を説きました。
大冠高校はどんな高校?
1986年に設立された大阪府高槻市の公立全日制普通科高校です。
スクール・モットーは「Find a Way or Make One(見つけよう つくりだそう 明日への道)」を掲げ、2年生から文化系と理数系に分かれる進学校としての特徴も持っています。
野球部は甲子園出場経験こそありませんが、公立校の雄として大阪大会では何度も上位進出を果たしています。
特に2017年夏の大阪大会では、東海大仰星や上宮を撃破する快進撃を見せ、決勝で大阪桐蔭に8-10で惜しくも敗れて準優勝という結果を残しました。
大阪の公立校が夏の甲子園に出場したのは1990年の渋谷高校が最後となっており、私学の壁は年々厚くなっているのが現状です。
そんな中でも大冠高校は、公立校としては大阪でトップクラスの実力を持つ野球部として知られています。
イチローはどんな指導をした?
画像引用元:full-Count
イチローさんは2日間にわたり、現実を直視しつつ挑戦する姿勢を育むことに重点を置いた指導を展開しました。
「大阪桐蔭と履正社の2強。相手がどう思っているか考えてほしい」と語り、強豪校との実力差を認識することの重要性を説きました。
その上で「(強豪校ではないチームは)眼中にない。そこに挑むんだよ」と、厳しい現実を直視しながらも挑戦し続けることの大切さを伝えました。
練習面では「練習が惰性になっている。瞬間的に、集中して力を出すイメージができていない」と指摘し、練習の質を高めることを求めました。
打撃指導では「全力でしないでいい。正しい形で振ってほしい」と基本フォームを重視。
また「ベンチにいる時から難しい状況をイメージする」など、常に心の準備をすることの重要性も説きました。
特に印象的だったのは、強豪私学との戦い方についてのアドバイスです。
「パワーのあるチームに対して自分たちが少しだけパワーをつけて近づいても勝てると思う?そこで勝負をしちゃだめだよ」と、知恵を絞った戦略の重要性を強調。
「気迫が伝わらない。完全燃焼しなかったら後悔するよ」と、全力でプレーすることの大切さも説きました。
イチローさんは公立校ならではの課題を理解した上で、技術面だけでなく精神面でも厳しくも温かい指導を行い、甲子園を目指す大冠高校の選手たちに、現実を直視しつつ挑戦し続けることの意義を伝えました。
岐阜県立岐阜高校を訪問
イチローさんは進学校である岐阜高校でも2日間の指導を行い、文武両道の可能性を強く感じさせる内容となりました。
特に選手たちの理解力の高さと素直な姿勢に感銘を受け、「高校生を見る目が、みんなに会って変わるかも」と評価しました。
岐阜高校はどんな高校?
岐阜高校は1873年(明治6年)に創立された歴史ある進学校で、2023年に創立150周年を迎えました。
野球部も1884年(明治17年)の創部以来、140年以上の歴史を誇ります。
青山学院と並び”最古の野球部”として知られ、輝かしい歴史を持っています。
甲子園出場歴は以下の通りです。
・夏の甲子園:3回出場(1948年、1949年、1954年)
・春のセンバツ:3回出場(1955年、1962年、1978年)
特に1949年の夏の甲子園では準優勝という輝かしい成績を残しています。
近年は甲子園出場こそありませんが、2023年春の県大会ではベスト4進出を果たすなど、着実に力をつけています。
また、2023年選抜大会の21世紀枠推薦を受けたことで、選手たちには「甲子園が夢ではない」という意識が芽生え始めているとのことです。
イチローはどんな指導をした?
画像引用元:スポニチSponichiAnnex
イチローさんは2日間の指導を通じて、進学校ならではの特徴を活かした指導を展開しました。
特に選手たちの高い理解力と素直な姿勢に感銘を受け、「高校生を見る目が、みんなに会って変わるかも」と評価するほどでした。
一日目は「初めましてイチローです」と挨拶した後、「ハハハハハ…賢そうな顔してるな、みんな」と笑顔で語りかけ、「みんなは甲子園という目標を持ってやっていると思うんだけども、その先の人生がもっと大事だからね」と、野球を通じた人間形成の重要性を説きました。
技術指導では、特に走塁に関して大きな成果が見られました。
選手たちの反応の良さに驚き、「今までのチームで、ここまであの形をスムーズにできたことはない」と高く評価。
ウォーミングアップでは「野球は曲線の動き」として、効率的な体の使い方を丁寧に解説しました。
トレーニングに関しては「パフォーマンスにつながるトレーニング」の重要性を強調。
「体が大きくなればいいものじゃない」とナチュラルな体づくりを推奨し、特に「前面につける筋肉には気を付けて。
後ろ(背中やお尻、太もも裏など)につく筋力は使える」と具体的なアドバイスを送りました。
特に印象的だったのは、文武両道に関する指導です。
「野球も頑張る、勉強も同じように頑張る。みんなはそれができるんじゃないかな」と、両立の可能性を強調。
さらに「社会に出た時に、目標に向かって自分なりに頑張った経験ってすごくいきる」と、将来を見据えた励ましの言葉も送りました。
2日間の指導を通じて、イチローさんは岐阜高校の選手たちの優れた理解力と実行力に感銘を受け、「こういう空気感は初めてかもしれない」と評価。
進学校ならではの特徴を活かしながら、野球と学業の両立、そして将来を見据えた人間形成という観点から、充実した指導を展開しました。
過去にイチローさんが訪問した高校は?
2020年から始まったイチローさんの高校野球部指導は、様々なタイプの学校で実施され、それぞれの特徴に合わせた指導が行われてきました。
以下が、これまでの訪問校の詳細です。
訪問時期 | 学校名 | 所在地 | 特徴・エピソード |
---|---|---|---|
2020年12月 | 智辯和歌山高校 | 和歌山県 | 初の指導校。翌年夏の甲子園で優勝 |
2021年11月 | 国学院久我山高校 | 東京都 | 伝統校での指導 |
2021年12月 | 千葉明徳高校 | 千葉県 | 甲子園出場経験のない学校への指導 |
2021年12月 | 高松商業高校 | 香川県 | 四国の強豪校での指導 |
2022年11月 | 都立新宿高校 | 東京都 | 当時部員17人の小規模部への指導 |
2022年12月 | 富士高校 | 静岡県 | 地域に根ざした指導を実施 |
2023年11月 | 旭川東高校 | 北海道 | フリー打撃で130m弾を披露 |
2023年12月 | 宮古高校 | 沖縄県 | 沖縄初の指導校 |
2024年11月 | 大阪府立大冠高校 | 大阪府 | 公立校の雄として期待 |
2024年11月 | 岐阜高校 | 岐阜県 | 進学校での文武両道の指導 |
2024年11月 | 愛工大名電高校 | 愛知県 | 母校への約18年ぶりの訪問 |
イチローさんの指導の特徴として、まず地域的な広がりが挙げられます。
北は北海道から南は沖縄まで、全国各地での指導を実施し、それぞれの地域の野球文化や環境の違いを考慮した指導を行っています。
また、学校のタイプも多様です。智辯和歌山や高松商業といった野球強豪校から、岐阜高校のような進学校、大冠高校や都立新宿高校といった公立高校まで、様々な特徴を持つ学校で指導を展開しています。
特に都立新宿高校では、当時部員17人という小規模な野球部でも熱心な指導を行いました。
さらに、2020年から毎年コンスタントに指導を実施し、年々訪問校数を増やすなど、活動の範囲を着実に拡大しています。
この継続的な活動は、日本の高校野球界に大きな影響を与えています。
実際、最初の指導校となった智辯和歌山高校は、翌年の夏の甲子園で優勝を果たすなど、その成果も表れ始めています。
まとめ
以上が、イチローさんの高校野球部指導の特徴と成果に詳しく解説してきました。
今後も続くであろうイチローさんの高校野球部指導は、単なる技術指導にとどまらず、高校生活やその先の人生まで見据えた総合的なものとなっています。
特に今回の3校(愛工大名電、大冠、岐阜)への指導では、それぞれの学校の特性を活かしながら、野球を通じた人間形成に重点を置いた内容となりました。
このような地道な活動が、日本の高校野球の発展に大きく寄与することが期待されます。
また、イチローさん自身も「高校生を見る目が変わった」と語るように、この活動が双方向の学びの場となっている点も注目に値します。