埼玉西武ライオンズの今井達也投手といえば、2016年のドラフト1位で注目を集めた逸材として知られています。
作新学院高校時代に甲子園優勝を果たした実績を持つ彼は、プロ入り当初からエースナンバーである「11」を背負っていました。
しかし、2023年シーズンから彼の背中には「48」という数字が輝いています。
なぜエース格の背番号を自ら手放したのでしょうか。
その背景には、尊敬する先輩投手への深い想いと、自分自身を変えたいという強い決意が込められていました。
今回は今井達也投手の背番号変更に隠された感動的なストーリーをお伝えします。
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今井達也の入団当初の背番号は「11」
埼玉西武ライオンズの今井達也投手が背負っていた背番号「11」は、球団の歴史においても特別な意味を持つ数字でした。
この番号には、ドラフト1位で入団した彼に対する球団の並々ならぬ期待が込められていたのです。
甲子園の英雄からプロの世界へ
画像引用元:日本経済新聞
今井達也投手は2016年、作新学院高校3年生として夏の甲子園に出場し、チームを全国制覇に導いた立役者でした。
その圧倒的な投球内容は多くのスカウトの注目を集め、同年のプロ野球ドラフト会議では埼玉西武ライオンズから1位指名を受けることになります。
高校生ドラフト1位という大きな期待を背負ってプロの世界に足を踏み入れた今井投手に、球団が用意した背番号は「11」でした。
これは単なる数字ではありません。西武ライオンズにおいて背番号「11」は、長年にわたってエース級投手が背負ってきた特別な番号だったのです。
エースナンバー「11」の重み
画像引用元:パ・リーグ.com
背番号「11」を最後に着用していたのは、岸孝之投手でした。
岸投手は長年にわたって西武のエースとして活躍し、2016年オフにFA権を行使して東北楽天ゴールデンイーグルスへ移籍したばかりでした。
その前には西口文也氏(現監督)も同じ番号を背負っており、まさに球団の歴史を象徴するエースナンバーと言えるでしょう。
高校を卒業したばかりの18歳の投手に、これほど重要な意味を持つ背番号を託すことは異例中の異例です。
球団がいかに今井投手に対して大きな期待を寄せていたかが分かります。
入団記者会見で今井投手は「11をいただいた意味を考えて、期待に応えられるように体づくりから励んでいきたい」と決意を語っていました。
プロ入り後の現実と葛藤
画像引用元:スポーツ報知
しかし、プロの世界は甘くありませんでした。
背番号「11」を背負った6年間(2017年~2022年)は、決して思い描いていたような順風満帆な道のりではなかったのです。
今井投手は持ち前のポテンシャルの高さを随所で見せつけるものの、制球難や故障に悩まされるシーズンが続きました。
特に2022年シーズンは開幕直前の右内転筋の張りに始まり、二軍戦での左足首捻挫、シーズン終盤の扁桃腺炎による発熱など、度重なる離脱を余儀なくされます。
2022年シーズン終了時点での通算成績は28勝27敗、防御率4.07という数字でした。
ドラフト1位指名、そしてエースナンバーを託された投手としては、本人も周囲も満足できる内容ではありませんでした。
今井投手自身も後に「正直言って、11番をいただいてから6年間、あまりチームに貢献できていない部分が大半だったと思います」と振り返っています。
それでも球団の期待は変わらず、2年連続で開幕投手を任されるなど、チームの中核を担う投手としての地位を築きつつありました。
楽天に移籍した岸孝之投手との「背番号11対決」はファンにとっても特別な意味を持つ対戦となっていたのです。
今井達也が背番号を「48」に変更した理由
2022年オフに起きた今井達也投手の背番号変更は、プロ野球界でも極めて異例の出来事でした。
エース格の投手が自ら一桁の背番号を手放すという決断の背景には、深い人間関係と強い意志が存在していたのです。
尊敬する先輩投手の引退
画像引用元:日刊スポーツ
転機となったのは2022年のオフシーズンでした。
この年限りで現役を引退することになった武隈祥太投手の存在が、今井投手の人生を大きく変えることになります。
武隈祥太投手は今井投手にとって特別な存在でした。
「唯一、僕に『こうやって投げろ』と言ってくれた先輩」として心から慕っており、二人は自主トレーニングを共に行うなど、師弟関係に近い絆を築いていたのです。
武隈投手の背番号は「48」でした。
2022年11月23日のファン感謝イベントで開催された武隈投手の引退セレモニーは、今井投手の運命を決定づける瞬間となりました。
花束贈呈の役を任された今井投手は、感極まって涙を抑えることができませんでした。
この光景を見ていたファンの多くも、二人の深い絆を感じ取ったことでしょう。
決意を固めた瞬間
引退セレモニーから帰宅する車中で、今井投手はすぐに球団に電話をかけました。
背番号を「11」から武隈投手が背負っていた「48」に変更したいという申し出でした。
「ドラフトで新しい選手が入ってきて、武隈さんを知らない選手が48を付けてプレーするくらいなら、自分が付けて武隈さんに恩返ししたい」
この言葉には、師匠への深い敬意と感謝の気持ちが込められています。
単なる背番号の変更ではなく、尊敬する先輩の意志を受け継ぎたいという強い想いが表れていました。
球団との交渉と覚悟
画像引用元:full-Count
今井投手の申し出に対し、渡辺久信GMは慎重な姿勢を示しました。
「本当にいいのか?後になってやっぱり11番がいいとか言うのはやめてくれよ」「48でも結果が出なかったら、どうするんだ?」と念を押したのです。
エース格の一桁番号を自ら手放し、より大きな数字の背番号に変更することは極めて異例のことでした。
しかし、今井投手の決意は揺るがず、「どうしても48を付けたい」という気持ちを貫き通しました。
背番号に対する新たな哲学
今井投手は背番号変更の真意について、次のような哲学を語っています。
「11番をつけたから活躍するんじゃなく、活躍する選手が11番をつけるからエースと呼ばれると思う。番号だから活躍するだけでなく。結局、誰がつけるかが大事」
この言葉からは、背番号の持つ「期待」というプレッシャーから自らを解放し、新たなモチベーションを見つけようとする強い意志が感じられます。
6年間背負い続けた重圧から解放され、心機一転してマウンドに立ちたいという想いが込められていました。
今井達也は背番号変更後どう変わったか?
画像引用元:週刊ベースボールONLINE
背番号「48」への変更は、今井達也投手にとって単なる数字の変更以上の意味を持っていました。
2023年シーズンの彼のパフォーマンスは、この決断がいかに正しかったかを証明する結果となったのです。
劇的な投球内容の向上
背番号を「48」に変更した2023年シーズン、今井投手は誰もが驚く変貌を遂げました。
シーズン開始から目覚ましい活躍を見せ、序盤戦では2戦2勝、計16イニング無失点という圧巻の投球を披露したのです。
特に印象的だったのは4月13日のロッテ戦でした。
8回1死まで無安打に抑える快投を見せ、最終的に2安打11奪三振で完封勝利を収めています。
150キロ台のストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップを巧みに使い分けた投球は、まさに圧巻の一言でした。
制球力の大幅な改善
長年の課題だった制球力も大幅に改善されました。
2023年前半戦の四球率(BB%)は3.7%を記録し、パ・リーグ平均の7.4%を大きく下回る優秀な数値を示しています。
従来の「ノーコン投球」から完全に脱却したと言えるでしょう。
この変化は技術的な向上だけでなく、精神面での安定が大きく影響していると考えられます。
背番号変更によって得られた新たなモチベーションが、投球の精度向上にも繋がったのです。
メンタル面での大きな変化
今井投手自身も背番号変更後のメンタル面での変化を実感しています。
「練習中に武隈さんと会うことがありますが、毎回うれしそうな顔でしゃべってくれる。1勝でも多く挙げることができれば、自分以外に喜んでくれる人が増えるので、そこは去年以上にやりがいを感じています」と語っています。
新たな動機を見つけたことで、野球に対する取り組み方も変わったようです。
単に自分のためではなく、尊敬する先輩のためにも頑張りたいという気持ちが、より一層の成長を促しているのでしょう。
投球フォームの改良と進化
2023年シーズンに向けて、今井投手は投球フォームも大幅に改良しました。
新しいフォームは「まるでデグロム(メジャーリーグの名投手)のよう」と評され、フォームから予測される球速と実際の球速に差があることで打者を混乱させる効果を生んでいます。
この技術的な進歩も、背番号変更によって得られた新たな気持ちが背景にあると考えられます。
心機一転することで、これまで以上に野球に真摯に向き合えるようになったのかもしれません。
チーム内での競争意識向上
西武投手陣全体の好調もあり、今井投手はチーム内での健全な競争意識も高めています。
「ウチにはいい先発投手がいるので、負けないように頑張りたいな」と語るなど、高橋光成投手や平良海馬投手といった同世代投手との切磋琢磨が、さらなる成長を促しているのです。
精神的支柱の獲得
今井投手は2023年シーズンについて「今年は『これを信じて貫き通してやっていけば大丈夫』というものが1つ見つかった。
それさえできていれば、相手どうこうでなく、いい投球ができると思う」と自信をのぞかせています。
長年探し求めていた精神的な支柱を見つけたことが、投球内容の安定に大きく寄与しているようです。
背番号変更は単なる番号の変更以上に、今井投手の野球人生における重要なターニングポイントとなったのです。
まとめ
今井達也投手の背番号変更は、プロ野球界でも極めて珍しい出来事でした。エース格の「11」から「48」への変更に込められた想いと、その後の劇的な変化について、重要なポイントをまとめてみましょう。
- 師弟の絆に基づく感動的な決断
- エースナンバーのプレッシャーからの解放
- 制球力の劇的な改善と投球内容の向上
- メンタル面での大きな成長と安定感の獲得
- 新たなモチベーションによる競争意識の向上
- 背番号の意味に対する深い哲学の確立
今井達也投手の決断は、背番号の持つ意味について改めて考えさせられる出来事でした。
「11番をつけたから活躍するんじゃなく、活躍する選手が11番をつけるからエースと呼ばれる」という彼の言葉は、数字に込められた期待やプレッシャーの本質を的確に表現しています。
武隈祥太投手への想いを胸に「48」を背負って戦う今井投手の姿は、多くのファンに感動を与えました。
師弟の絆、恩返しの気持ち、そして自分自身を変えたいという強い意志。これらすべてが結実した結果が、2023年シーズンの素晴らしいパフォーマンスだったのです。
プロスポーツの世界では結果がすべてと言われますが、今井投手の背番号変更は、結果を出すためには時として大胆な決断も必要だということを教えてくれます。
彼の今後の活躍にも大いに期待したいと思います。